連載コラム 今なぜアスベスト問題なのか

第5回 補償制度

アスベストによる健康被害の補償制度について考えてみましょう。
これには、労働者災害補償保険制度(労災補償)と石綿健康被害救済制度(石綿救済制度)の2つがあります。
石綿救済制度は2005年に尼崎クボタの工場周辺住民が中皮腫を発症している事が明るみに出て、労働者以外の
救済を目的にその翌年に急遽作られました。
これらの対象疾患は、中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水ですが、石綿救済制度では
良性石綿胸水は含まれていません。
ここでは補償内容と患者認定基準について両者を総論的な観点から比較検討しました。
まず初めに、石綿救済制度は労災補償に比べて、補償内容がお粗末で給付水準の低さが目立ちます。
労災補償では特別遺族年金が年額240万円又は一時金が1200万円に対して、石綿救済制度での一時金は300万円で
遺族年金はありません。
さらに石綿救済制度は医療費の補助が主で、療養費も労災補償に比べて低い評価です。
これらの理由により、できれば労災補償の給付をめざすべきです。
一方、認定基準については、中皮腫や石綿肺はアスベストとの医学的因果関係が明らかですが、肺がんではタバコ
など他の原因も考えられるために認定のハードルが高くなっています。
1年~10年間の石綿作業従事期間が求められたり、胸部X線検査で長期間に及ぶ高濃度曝露による合併病変が重視
されるなどの「職業曝露」を前提にした基準となっています。
2006年に石綿の使用や製造が全面的に禁止されて後のアスベスト飛散の発生源は、建物の解体に伴うもので、環境
曝露の様相が強くなってきました。
従って、患者認定においては現状に見合った「環境曝露」を前提にした基準を作成する事が必要です。
また、中皮腫の1年生存率は50%、5年生存率は5%と厳しい予後で、患者は急激に健康被害から生命被害に陥ると
ともに、その家族や遺族の精神的・経済的負担が危惧される事態に至るため、被害者本人のみならず家族や遺族を
含めた「包括的被害者救済制度」の構築が求められています。
この様にアスベスト健康被害に対する補償や救済については、多くの問題が指摘されています。
私たち皆の力で改善に向けて働きかけましょう。
~次回は今後の課題について考えてみます~